【2025注目の逸材】
つじもと・しょうご
辻本翔虎
[三重/6年]
しょうの
庄野シリウス
※プレー動画➡こちら
【ポジション】投手、三塁手
【主な打順】二番
【投打】右投左打
【身長体重】157㎝46㎏
【好きなプロ野球選手】大谷翔平(ドジャース)、佐藤輝明(阪神)
※2025年4月8日現在
試合中の指揮官と選手との間では、多くがアイコンタクトやゼスチャーで意思疎通がなされていた。コーチ陣は前向きな声掛けに終始。打席でも守るフィードでも、選手たちは冷静かつアグレッシブ。どういう状況でも、結果を恐れたり、大人の顔色をうかがうような所作は見られなかった。
活況を呈するチーム
「子どもたちがワ~ッ!という楽しさよりも、試合に勝つ喜びとか、強いチームの仲間たちと良い勝負ができたりとか、そういう醍醐味や充実感を味わってほしい。今日のこの大会は3つ負けましたけど、勝ち負けより得るものは大きかったと思います」(林貴俊監督=下写真)
三重県の庄野シリウス。5・6年生チームの試合を筆者が初めて取材したのは、昨年11月の多賀新人強化大会だった。
この大会は5年生主体の新チームの腕試しの場で、日本一3回の多賀少年野球クラブ(滋賀)が主催。近畿、東海、北陸、中国などから毎年、全国舞台を目指すチームがやってくる。
シリウスはトーナメントの初戦で敗れ、敗者復活戦でも連敗。それでも大所帯に弛緩したムードはなく、プレーする選手もベンチも最後まで集中が保たれていた。学童野球チームがこの15年で4割減という、負の流れに逆行している理由の一端がうかがえた。
そして際立っていたのが、投打二刀流の辻本翔虎だった。
「試合中はドキドキしていました」と言う割に、落ち着き払った言動やプレーが印象的で、スケール感も訴えてくる。2試合を消化した時点で、左打席から3本のサク越えアーチを放ってみせた。
プレー動画には3本のうち1本しか収められていないが、いずれもライト方向へ。当たった直後に70mの特設フェンス越えは明白、という豪快な打撃だった。
「打席ではセンター方向に打つことを意識してるけど、ホームランはライト方向が多いです。打った瞬間は気持ちいいというか、うれしい感じです」
1学年の上の代でもレギュラーを張ってきた2024年、辻本は20本近くの本塁打をマークした。バットヘッドを投手方向に深く傾けつつ、大きく足を上げる一本足打法がこだわりであり、長打力の秘訣。相手投手は当然、タイミングを外す投球もしてくるが、対策もばっちりだ。
「タイミングが合わないときは、(引き上げた)足を1回着いて振ることもあるし、速いボールを待ちながら緩いボールを打つ練習を監督やコーチに教えてもらってやっています」
もともと、タイミングを合わせるのが苦手なほうで、スイングをする前に身体が回り始めてしまい、当てるだけの打撃になることもしばしばだった。それを防ぎつつ、力を貯めることもできるようになったのが一本足打法。これは毎週木曜日に通う、野球塾でも指導を受けながら磨いてきているという。
辻本は火曜日には、別のトレーニングスクールへ通い、野球に適切な体の動かし方など機能性を高める努力をしている。どちらのレッスンも、自分から両親にお願いをして5年生から通い始めた。
非登板時は三塁を手堅く守る。準備動作から基本に忠実だ
強豪チームの中には、選手がこうして部外者に習うことを禁じたり、煙たがる傾向もあったりするが、シリウスではフリー。ただし、林監督は選手たちにこう説いている。
「自分に目標があって、それを達成するために自分で考えたり、自分でどういう練習をするか、というのが大事。そういうものがなくて、親に『やれ!』と言われてやるだけなら、やらんほうがいい。それは野球でも習い事でも、ふだんの生活でも一緒」
5年秋の時点で最速101㎞。現在は5㎞ほど増している。最初の全国予選、地区大会の準々決勝では、6回の1/3まで無安打の快投で2対0の勝利に貢献
毎週水曜日は高学年のチーム練習があるが、これも現在は自由参加となっている。自らの意志で平日練習にも顔を出している辻本について、指揮官が最も評価しているのは主体性と野球好きなところだという。
「辻本は飛ばす力もあるし、今では背番号1のエースで、ゲームをつくってくれる。でも何より、野球が大好きで自分から取り組む姿勢が素晴らしい。持っているものも、ホントにかなりなものなので大事に育ててあげたいなと思っています」(林監督)
辻本は根っからの阪神ファンで、今年はタイガースジュニアに入ることも目標にしているという。
「将来はプロになってホームランバッターか、2ケタ勝てるピッチャーになりたい」
「全国? イケます!」
辻本は9歳上の姉との2人姉弟。野球人の父と4歳あたりからボールを投げたり、打ったりをしてきたという。
「野球のときのお父さんは、厳しいときも優しいときもある。小さいころはボールが怖かったので、お父さんのノックも打球が速くて怖いなと思っていました」
1年生で地元のチームに入り、4年生になる前にシリウスへ移籍。学年と習熟度に応じてビギナー、キッズ、ジュニア、トップと4つのカテゴリーに専門の指導者を配する新天地で、才能を開花させていった。
「林監督とやる野球は、とてもプレーがしやすいです。個人的にはホームランがうれしいけど、ゲッツーとかサインプレーとか細かいことをやってみんなでアウトを取って喜ぶのが一番好き。ボクたちの代は、攻撃も守備もみんなに役割があって、勝つためにみんなでそれをやっているところが良いところ。目標は全国制覇です」
それも決して、高過ぎる目標ではない。シリウスは40年以上の歴史がある中で、林監督が就任した2011年から着実に結果も残してきている。
「小学生の甲子園」全日本学童マクドナルド・トーナメントの出場こそないが、三重県予選で2020年と2023年に準優勝。その他、2010年以降の予選だけでも県4強が2回、8強が1回と、夢舞台までもう少しのこところまで来ているのだ。
「大人用レガシー(複合型バット)は、こすっても打球が飛びました。そのバットが使えなくなってからホームランは減りましたけど、ミート力が上がって二塁打、三塁打が増えてきました」(辻本)
聞けば、2度目の県決勝は1点差の惜敗。ざぞ無念だったことだろうが、林監督をはじめ指導陣に悲壮感やピリついた雰囲気はゼロに近い。ホームページでもうたっている『選手ファースト』の環境と取り組みが最優先。またそれがかえって、人を集めることになり、選手たちのハートに火をつけているようだ。
すでに地元の鈴鹿市を含む地域予選を制し、6月半ばの県大会出場を決めている。三番・投手として勝利に貢献してきた辻本も当然、チームの惜しい歴史を把握している。その上で、全国出場へ最後の重い扉をこじ開けるべく、決意をこう語っている。
「県大会優勝、イケます! 今年はバットのルールが変わって、相手も自分たちもバッティングが変わってきたので、投手陣を主体にちゃんと守ってリズムに乗ることが大事だと思います」
勝利宣言で終わらない。やるべきことまでを自分の言葉で話せるあたり、シリウスの育成も辻本家の方針も、本人の人生も、間違いなく「正」の方向を指しているようだ。
母・智恵子さんによると、自宅での辻本は「超」のつく、のんびり屋さん。それが時には、微笑ましいでは済まないこともあるという。
「良い意味でマイペース、と言いたいところなんですけど、ホントに大事なときも急がないので、こちらが急かすときもあるんです」
是非は別として。いちいちジタバタしないというのは、どの大物にも共通することは確かなところだ。
(動画&写真&文=大久保克哉)